情報教養研究会 特別連載

国際協力・交流と私(7回シリーズ)

(No.6)1999年タイ研修について

安藤 茂樹

 

<最終更新日 2000/2/2>



1 はじめに
 今回、タイの研修旅行に同行して、プーケット小学校、ラチャパット・プーケット大学、ラチャパット・スラターニー大学の3カ所でプレゼンテーションを行うことになった。日程は7月31日に日本を発ち、8月7日に帰国する7泊8日の研修であった。
 参加人数は大学の指導教官を初め、内地留学生6名、学部生など総勢15名であった。主な研修場所としてはプーケットとスラターニーである。

2 タイの生活
 言語(ことば)はタイ語であり、外国語として英語(観光地は英語でコミュニケーションを図ることができる)で意志疎通を図ることができる。また、小学校から英語を外国語として学習しているため、教員は英語によるコミュニケーションを図ることができる。

スラターニでバイクを交通手段に使っている若い女性(手を振ると笑顔で手を振ってくれた)

 気候は、12月をのぞき1年中暑く、湿度も高い。雨期は5月から10月だが、南北に長い国土の地形であるために地域により違いがある。
 交通機関としては、PHUKETOは鉄道が市内を走っておらず、移動はすべて車かトゥクトゥクである。「トゥクトゥク」というトラックタクシーが町の中にあふれており、たくさんの人を乗せて町の中を走り回っている。このタクシーの料金は一律10バーツ(日本円で30円程度)しかし、観光客には高額を取るとことがあるので注意が必要である。他地域への移動は航空機を利用することもある。バスの利用やレンタカーなど予算に応じて利用が可能である。人々の交通手段は車とバイクである。車は日本車(日産・トヨタ・イスズ・ホンダ)韓国車がほとんどである。昭和40年代の日本車も走っている。町の至る所に部品店のような店があり、自動車の修理をしている。特に多いのはバイクである。2人乗りは一般的で3人4人と1台のバイクに乗っている姿も珍しくない。バイクのシートが長いのは2人乗り基本として作られているようである。バイクもホンダ・カワサキとほとんど日本車である。

トゥクトゥクを使っている人(日本の軽トラックに幌と長椅子をつけた車で、乗り合いタクシーのような感じ)

 食生活は、農産物・海産物など食材が大変豊かである。料理も種類が豊富で家庭料理としていろいろなものが食べられる。有名な家庭料理として「トムヤンクン」(エビ入りスープ)「カオパット」(焼きめし)がある。それぞれの家庭の味があるようである。果物も非常に豊かである。ドリアン, ランブータン, マンゴ, パパイヤ, スイカ, マンゴスティン、バナナ、パイナップル等種類・量ともに豊富である。

タイの果実(ロンガン)で、とてもみずみずしくおいしい

 町の至る所に露店があり、1日中多くの露店が営業をしている。また、自転車に食材を積み行商をしている姿もよく見られる。人々は家庭で料理を作って食べるよりも、露店等で食事をした方が安上がりのため、このような露店が多くあるそうだ。
 習慣(しゅうかん)や風習(ふうしゅう)としては、仏教徒が多く、非常に信仰の厚い国である。町の寺にはいつもたくさんの人々が参拝をしている。また、多くの家の前には社のようなものがあり、人々の信仰の厚さを物語っている。

3 アヌバーン・プーケット小学校の様子
 プーケット小学校は、この春に行われたエデュテイメント99の遠隔授業で登場した学校である。その時の授業は、京都の小倉小学校とプーケット小学校の子ども達が「お昼の弁当」を交流すると言ったものであった。そのときの会場も今回の視察で見せていただいた。

プーケット小学校の校門

 プーケット小学校は、児童数約2500人、教職員数約100人という日本では考えられないくらい大規模な小学校であった。1年生から6年生までがそれぞれ6〜7クラスに分かれて学習している。学校の校門に入って子どもたちに出合うと、どの子どもたちも手を顔の前であわせてにこやかに「サワディーカー」(こんにちわ)と必ずあいさつをする。授業開始までの子どもたちの姿は日本の子どもたちと同じで、にぎやかでざわざわしている。廊下を来客が通るとあいさつをしたり、手を振り歓迎したりしてくれる。カメラを向けると身を乗り出して被写体になっている様子も日本の子どもたちと同じである。授業が始まると同時に教室は静かになり子どもたちは学習に集中する。
 上記に述べたとおりタイでは英語を小学校で学習しているので、どの子ども英語を耳にしている。また、このPHUKETは観光地でありたくさんの観光客が訪れるので英語に親しむ機会は多い。しかし、英語が通じる様子は見られず、子どもたちとの言語によるコミュニケーションはタイ語が必要である。

低学年児童の机のない教室(図工で絵を描いている)

 時間割は低学年が、8:30登校、9:00授業開始、11:30ランチタイム、15:00下校。高学年が、8:30登校、9:00授業開始、13:00ランチタイム、15:30下校というものである。教科は国語・算数・音楽・図工・理科(社会といっしょになったもの)英語・体育であり、タイでは英語を外国語として小学校から学習している。参観した4年生の英語のワークブックを見ると、日本の中学1年生の後半に学習する内容程度のものを使用していた。具体的な教育課程についての説明は受けることができなかったが、それぞれの授業風景を見せてもらいながら説明を受けた。
 まず、第1の特徴として、制服を導入していることがある。制服のメリット、デメリットは様々であるが、少なくとも制服以外の服について保護者が用意する必要がないことは事実である。
 第2の特徴として低学年の教室には机やイスがないことがあげられる。子ども達は床に寝そべったり座ったりして学習していた。教室の照明も日本と比べれば暗いように感じたし、決してよい学習状態ではないと思うのだが、学習を柔軟に展開するため、また、昼食後の「昼寝」のため教室には机やイスを置かないそうである。
 第3の特徴として、教室や廊下の掲示が大変カラフルであることが挙げられる。さまざまな掲示が工夫されているのは日本でも見られるが、その色使いは目を見張るものがあった。また、各学級で児童が使う袋やスタンドなどは学級の色が決められて使われており、色に関する意識の違いを強く感じた。各教室の入り口に下駄箱があり教室では、靴下で活動している。教室の入り口には各児童の写真と名前が掲示してあった。
 4つ目は、設備の問題である。教室の机は、傷のついた木の机であり、日本であれば廃棄することもあるような机であった。しかし、各教室にはテレビとビデオがハンガーで天井からぶら下げられていた。また、コンピュータルームやLL教室も充実した機器が置かれていた。コンピュータはコンピュータルームに23台設置されている。2人の児童に1台の利用台数である。少しアンバランスな感じを受けないでもなかったが、重点的な設備投資の現れなのかもしれない。
 5つ目は国旗がそれぞれの教室に掲示されていたことであった。日本の小学校では考えられないことである。小学校のうちからこのように国旗国歌に対する尊敬と愛着を感じるような教育を受けているからこそ、国際舞台などで愛国心が自然に表出してくるのだと理解できた。日本との大きな違いを感じた。
 6つ目は学生のボランティアがたくさん来ていたことである。話を聞くと、彼らは教員養成系の大学生であるということである。その大学生がノートの添削をしたり、授業の補助に入ったりしているところを多く見かけた。日本で言うティームティーチングというところかもしれない。もし、そのような事が日本でも行えるのであれば、担任を初めとする教師にとっても、教師を目指す大学生にとっても、もちろん指導を受ける子ども達にとっても有益なことであると思った。
 7つ目は廊下で先生が仕事をしておられることである。残念ながら職員室を見ることができなかったので、はっきりしたことは言えないが、先生が廊下の隅っこに机をおいてノートを見たり、様々な教具を作ったりしておられたことである。彼らは教諭なのかボランティアの学生なのかは分からなかったが、寸暇を惜しんで仕事をされている姿には頭が下がる思いがした。

まるで体育館のようなランチルーム(交代で給食を食べるそうである)

 最後に給食のことがある。2500人の子ども達が給食を食べるので一度に食べさせることができないそうである。低学年は11時30分から食べ初め、順に中学年、高学年と3交代で食べるそうである。ランチルームとしては、屋外イベント用の集会場のような所にイスと机を置いて給食を食べるそうである。屋根が高く、広いので暑くはないようであるが、埃とかのことを考えると、問題もあるように感じた。
 それ以外にも多くのことがあるが、子ども達は学校から帰ってから親の手伝いをよくしている姿が見られた。スラターニーの小学校の先生に聞くと、「なぜ日本の子ども達は手伝わないのか」と聞かれてしまう有様で、文化の違いとしか言いようがないと思った。また、日本では禁止されている教師のアルバイトも公認のようである。これは、タイでの教師の身分と賃金が低いため仕方のないことのようである。そのような理由からかは定かではないが、男性の担任は見たことがなかった。
 いろいろ日本と違う所はあった。学習している内容も方法も違うところもあった。しかし、基本的には同じ小学生なのだと感じた。お手玉や剣玉をする代表を決めるときは、取り合いになるほどの喜びようであったし、夢中になると指示が聞こえない所などは、日本もタイも関係なく世界共通の子どもの姿なのだと安心した。

給食(私たちにはとても辛かったが児童はなれているためか平気だそうである)

4 プーケット小学校での授業
 プーケット小学校4年生の教室で「折り紙」の折り方を指導するという機会に恵まれた。もちろんタイの子供が対象であるので日本語は全く通じない。簡単な自己紹介をタイ語でした後、「角(ムゥム)」「あわせる(ルワム)」「たたむ(ペープ)」「開く(ブゥート)」「上(カーング・ポン)」「裏(カーング・ラング)」といった単語(言語)、大きな正方形の紙と児童用折り紙(教材)、身振り手振りなど(非言語)を織り交ぜて「かぶと」の折り方を伝えようとした。
 タイの子ども達は、私の間違った発音を訂正してくれながら、言語によるコミュニケーションよりも非言語によるコミュニケーションや教材の有用性を手掛かりに、ほぼ全員の子供が「かぶと」を折ることができた。

私(安藤)が自己紹介を言語コミュニケーションで行っている

 今回の取り組みの中で、折り方を指示するときの言語として不十分なタイ語を使用したが、そのことによって、子ども達が「かぶと」を折ることができた大きな要因として「言語」「非言語」「教材」のどれを挙げればよいかが不明確になったように思う。もし、指示する言語として日本語を使っていたならば、彼らは日本語が全く理解できないのであるから、そのような設定でも「かぶと」を折ることができたとしたら、「折り方」を伝えることができた要因として「非言語」や「教材」の有用性が明確に出せたように思う。小学校におけるプレゼンテーションを成功させたいという気持ちが先行してしまい、せっかくの機会を逃してしまったように感じている。
 しかし、授業の中でタイの子ども達は、私の下手なタイ語、それも単語をいくつか言うだけの言語コミュニケーションだけで「かぶと」の折り方を理解したのではない。少なくとも大きな正方形や児童用の折り紙という教材としての教具がなければ、決して理解できたとは思えないし、汗をかきながらした身振り手振りが不要だったとも思えない。

私(安藤)が非言語コミュニケーションを中心にして折り紙の折り方を教えているところ

 今回の授業を通して、何かを相手に伝えるときに言語は確かに有効であるが、非言語や教材も言語と同等かそれ以上に有効であると言うことを実感した。

5 おわりに
 今回の研修でたくさんのことを学ぶことができた。また、プーケット小学校、スラターニー大学でプレゼンテーションを行ったわけであるが、スラターニー大学ではプレゼンテーションを終えるなり「おもしろかった」「よくわかった」と、お世辞も含めてだろうが評価してもらったことは大きな自信になった。さらに、チョクディー先生やヌイさんをはじめとするタイの人と親しく交流できたことは何物にもかえがたいことである。そして、いつも言われていた「Learning By Doing」ということを身を持って経験・実践することができたことは、これからの教育実践、とりわけ来春から導入される「総合的な学習の時間」の実践に大いに役立つと確信している。貴重な経験を生かしていけるよう、さらに研修を深めていきたい。

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