情報教養研究会 特別連載
国際協力・交流と私(7回シリーズ)
(No.5)セントクリストファー・ネービス(中南米)における技術協力
林 徳治

<最終更新日 1999/8/10>
私は、1997年1月から4月までの3ヶ月間,国際協力事業団(JICA)事業の一環として,
中南米のセントクリストファー・ネービス国での視聴覚・コンピュータ教育の技術協力に従事しました。
任地での仕事や生活を通して印象深かった体験談をふまえながら,この国について述べたいと思います。


1. セントクリストファー・ネービスについて
セントクリストファー・ネービスという国は,日本などアジア諸国では馴染みが薄く,
今回JICAからの派遣も教育分野では初めての試みでした。
セントクリストファー&ネービス(通称St.Kitts & Nevis)は,西インド連合州諸国のひとつで,
カリブ海と大西洋に囲まれた美しい小さな2つの島からなる国です。総面積262km2,総人口約4.1万人で,
St.Kitts島(169 km2,人口3.5万人,首都バセテール)と,
ナローズ海峡で隔てられたNevis島(93 km2,人口6千人,州都チャールズタウン)よりなっています。
両島間の交通機関は,国営のフェリー(約50分)やセスナ機(約10分)があります。
両島とも1493年コロンブスの第2回航海で発見され,その後17世紀初めまでスペインが支配したため,
前者はコロンブス乃至聖人に因んでセントクリストファー,後者は雲をいだく山(985m)を,
"雪の聖母"(Nuestra Senora de las Nieves)と言ったとこらからネービス(Nevis)と呼ばれるようになったそうです。
クリストファーの英語の愛称がKittsであることから,英領時代にセントキッツとの呼び方が一般化し,
独立後も公式名はセントクリストファーですが,"セントキッツ"も事実上の公式名といして使用されています。
産物は,セントキッツは砂糖,ネービスは蜂蜜で,主にアメリカ合衆国に輸出されています。また観光地(リゾート地)
として有名で,アメリカ,ヨーロッパなどから大きな客船や個人のクルーザーで訪れ,国内に多数あるホテルやコテージに
長期滞在する比較的裕福な夫婦や家族連れが目立ちました。母語は英語です。


2. 任地での仕事の概要について
今回の派遣では,京都教育大学の加茂前学長をはじめ,教職員の皆さまのご理解とご支援により実施できたことに
感謝の意を表します。派遣目的は,各学校での視聴覚教育についての現地調査,教員を対象としたワークショップ開催などの協力です。
視聴覚教育については,従来のオーディオ&ビジュアル機器に加え,マルチメディアやネットワーク技術などの
コンピュータの教育利用も対象にしました。滞在中,教育省が計画した教員対象のワークショップの実施を両島で行ない,
現地の小中高大学へ行き,視聴覚・コンピュータを利用した授業の視察・調査を実施しました。これらをデジタルビデオカメラに
収録し帰国しました。


3.任地での教育制度について
英国占領時よりの教育制度が基本として引き継がれいます。初等教育(Kindergarten, Primary School)6年,
中等教育(Junior Secondary, Secondary School)6年,中等後期教育(College)2年で,公立の学費はすべて無料です。
初等教育では,給食制度(無料)が実施されており,制服制度も取り入れています。
その他,MPV(Multi Purpose Workshop)という技術教育(機械,建築,電気など)の訓練校が,
Secondary Schoolと並行して設置されており,適性に応じて生徒が学べます。本国には4年制大学はなく,
カレッジ卒業後に進学希望する生徒は,カリブ共通試験(CEC: Caribbean Examination Council)にパスして,
西インド連合大学(トリニダードトバコ,ジャマイカ)に進学できます。


4.学校での授業の様子について
初等中等段階の学校の授業風景は,日本とほとんど変わりません。
担任制で1クラス40名前後の児童生徒で1クラスが構成されており,
黒板,手作りの教材・教具が所狭しと掲示・陳列されている風景が目立ちました。
OHPやビデオは,教室ではほとんど見かけませんでした。しかしラジオ放送を利用した教育番組を通して,
2島での同時遠隔授業の実施に向けて取り組んでいました。
子どもたちの顔の表情は,ほんとうに豊かで印象的でした。
放課後,きれいな海,山,広い運動場で思い切り飛び跳ねる彼らの姿を見ていると,
今の日本の子どもたちが忘れかけている「遊び」について考えさせられました。
コンピュータ学習ですが,St.Kittsの学校では,Secondaryの4校に約20台のパソコン(一部はLAN)が設置され学習に利用されています。
これらの一部は,台湾政府からの寄贈によるものでした。他の学校は主に文書作成(ワープロ)に利用され,
成績処理など教育情報処理の利用は見られませんでした。


5.任地でのインターネット利用
任地では,アメリカの最新テクノロジーの影響を多分に受け,インターネットやケーブルテレビが普及しています。
特にインターネットの教育利用は大変関心が高く,教育省はEメールアドレスを持っています。
また観光省では,観光用ホームページ(HP)も多く作成しています。
今回の教員研修でもインターネットやマルチメディアについて実施しました。
また私の滞在中,インターネットは大変有用でした。
日本への電子メール,HPによる日本や世界の最新の情報が即座に入手でき,情報の発信・入手に不自由さを感じませんでした。
日本と13時間の時差こそありましたが,真夜中(日本では昼)に,友人と対話形式でメール交換したことは忘れられません。
任地の教員と日本の友人とのメールによる新しい交流が生まれ,今でも続いています。

6.派遣を通じて
何よりも多くのカリビアンの先生や子どもたちと知り合いになり友情を深めることができたことです。
また,任地の人たちととの交流を通じてハイテクノロジー王国日本=金持ち=経済最優先といった
誤った認識が横行している任地で,国民の生活などを通じ真の日本の姿を伝えてきました。
町には,トヨタ,ソニー,キャノン,三菱…と多分野で日本製を目にしました。
確かに日本はテクノロジーでは有名でした。しかし国策,国民の生活レベルなどにおいて世界レベルで自分勝手(輸出黒字),
環境破壊(二酸化炭素),貢献・支援などで疑問をもつ声も聞きました。
任地では,早くから子どもたちに環境教育やボランティアを授業で取り上げていました。
90%以上の国民がキリスト教で,このもとで道徳や倫理教育が,家族・地域住民が一体となって遂行されているようでした。
筆者も信者ではないのですが,毎週日曜日教会へ行くのが常でした。
今日,日本で創造性,個性,介護,環境などをあえてスローガンにして教育が進められています。
国民がもう一度世界の一員として今の日本に欠けているもの,忘れているものは何かを見つめなおす時期にきているのではないでしょうか。
日本を離れ,外から見た日本を体験し痛感した次第です。
<St.Kitts & Nevis に関するHP>
http://www.webcom.com/earleltd/sk/sk.html
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